からさき整骨院(大津市際川)院長の杉尾が、学会で学んだ内容をまとめました

近畿・大阪学術大会2026 滋賀大会(2026年10月11日)特別講演・実技より

やり投げ・村上幸史先生の体幹トレーニング 解説ノート

配信動画のうち、村上先生が実技で紹介した「腰痛予防のファンクショナルトレーニング」の部分を、場面ごとに切り出しました。各項目の「この場面を再生」を押すと、左の画面でその場面の動画が始まります。

考え方 1

前置き:27年の競技生活で腰痛がなかった理由

実技の前の対談部分です。村上先生は競技生活27年で腰痛の経験が一度もないと話し、その理由を「腰痛が治らない選手を観察して見えたこと」から説明しています。

  • 外側だけ固めている:腰痛が改善しない選手はウェイトトレーニング中心で、外側の筋肉ばかり固く、内側がスカスカ。先生は「外観は立派なのに中に入ると頼りない家」にたとえています。
  • 足裏を全部使えていない:つま先だけで着いて歩く癖のある選手は腰痛に苦しんでいる。つま先は本来、作った力を次へ送り出す場所で、そこで着地するとブレーキをかけながら進むことになり、背中が反ってくる。
  • 姿勢がよい人は腰痛がない:反った背中は、体幹の筋肉がチームとして働いていない証拠だという見方です。
このあとの種目とのつながりここで出てくる「足裏(地面との接し方)」と「体幹の筋肉をチームとして使う」が、このあとの全種目に共通する軸になっています。
準備運動

手のひら合わせ押し(体幹の「組織化」を体験する)

2人1組

やり方

  1. 2人で向かい合い、片手の手のひらを合わせる。足と膝は正面に向けたまま動かさない。
  2. 悪い例を先に試す:体ごと(おへそごと)押す方向へ回して押してみる。腕は前に出ていかず、相手を押せない。
  3. 正しい例:おへそは正面に残したまま、むしろお腹は反対向きに引くつもりで、腕だけを押し出す。腕がすっと前へ出て、相手を押せる。
意識するところ体幹の役割は「その場にとどまり、元の位置に戻ろうとすること」。台風のあとも元の位置に戻っている木の幹と同じ、という説明です。体幹がとどまるから、腕や手といった末端が走ります。
よくある間違い力を出したくて体幹が先に動いてしまうこと。投げる・打つ動作でも、体幹が先に流れると末端に力が伝わらず、肘や肩を痛める原因になると話しています。
「体幹強化というのは腹筋強化ではないんです」— 村上先生(動画内)

左右の腹斜筋のように、同じ名前の筋肉でも、ひねる場面では左右で仕事が違います。全部を同じ向きに動かすのではなく、それぞれに役割を持たせて一つのチームにすることを、先生は体幹の「組織化」と呼んでいます。

実施前のチェック

一歩踏み出したところを指で押してもらう

2人1組左右とも

やり方

  1. 片足を一歩、前にドンと踏み出して止まる。
  2. 相手に人差し指で軽く押してもらう。反対の足でも行う。

トレーニング前は、ほとんどの人が指一本で簡単に崩れます。先生は「支点どうしの連動がつながっていない状態」と説明し、年齢は関係なく、30分ほどの運動で変えられると話しています。

このあとの約束ごと「意識性の原則」自分で考え、意識し、感じながら行い、「こういう感じか」をつかむところまでを一つのセットにする。先生が挙げた、たった一つのルールです。形だけまねても効果は薄い、という前提で以下の種目を見てください。
「整える」という考え方毎日同じ基本で体を整えてから練習に入ると、整っていない日に違和感として気づける。迷ったときに帰る場所が「基本」だ、という話もこの場面にあります。
種目 1

足を大きく開き、両手を着いて腰で円を描く

左右 各10回(合計20回)

やり方

  1. 足を前後に大きく開く。
  2. 両方の手のひらを、前足の真横の床に置き、床を押す。
  3. 両手・両足の4点が床に着いた状態を保ったまま、腰で円を描くように回す。上から見て、腰がぐるっと回っていくイメージ。
  4. 左右それぞれ10回ずつ。
意識するところ 負荷を感じる場所は、おへその下(丹田)と股関節。床に着いている部分は、手を広げてできるだけ大きな面積で着ける。コンパスの針の役をするのは、後ろ足の母指球から先です。
よくある間違い太ももの裏(ハムストリング)ばかりに負荷がかかっている場合は、できていないサインだと先生は指摘しています。

この場面で語られていること

  • 中から温める:よい動作は体の芯から温まる。表面だけ温めても意味がなく、新聞紙のようにすぐ燃えてすぐ消えるのではなく、炭のように一度ついたら長く保つ状態をつくる準備運動だ、という説明。
  • 地面のつかみ方:猫の肉球を押すと広がって爪が出るのと同じで、体重をかけて踏み込むと足裏や手のひらは広がる。先に指を握り込んだ状態で着いても使えない。まず広げて接地面を大きくすることを、先生は「地面との接触の密度を高める」と表現しています。
種目 2

手で歩いて前へ出て、戻る

6回

やり方

  1. 両手を床に着き、お腹に力を入れて背中が丸い山(アーチ)になった構えをつくる。
  2. お腹の力を保ったまま、手で歩いて前へ進む。進むほど背中の山はなだらかになり、床と平行くらいまで伸びる。
  3. 手で歩いて戻る。足に近づくほど、背中はひとりでにまた丸い山になる。行けるところまで近づく(先生いわく、アスリートなら肘と膝がつく)。
意識するところ 前へ伸びて背中がなだらかになったときも、お腹を落とさない。「お腹の力を一切抜くな」がこの種目の要点です。腕は腕で動かすのではなく、お腹で動かす。背中の丸みは自分で作りにいくのではなく、移動した距離によって勝手にできるのが正解、と説明しています。
よくある間違い構えの時点で力が抜けて腰が落ちた姿勢。先生は「体幹が死んでいる状態」と呼び、横から押されても戻ってこられない例として実演しています。腕だけで歩くと、ただの手の運動になってしまいます。
なぜお腹側なのかこの姿勢では重力が上からかかり、下になるのはお腹側。下になっている側を意識すると体幹が働きやすい、というのが先生の説明です。
種目 3

四つ這いで、お腹から背中を持ち上げる(腕を動かさない版)

10回 × 1セット

やり方

  1. 四つ這いになる。肩の真下に手、お尻の横(大転子)の真下に膝がくるようにし、腕と太ももを床に対して垂直にそろえる。
  2. 手と足で床を押し、その力をお腹に伝えて、お腹から背中を丸く持ち上げる。頭は自然にもぐり、おへそを見る向きになる。
  3. ゆっくり下ろす。ただし、だらんと下まで落とさず、緊張を残した位置で止める。体は前後に動かさない。
意識するところ 「地面を押す → 押した力がお腹に伝わる」の順番。先生は、人は筋力だけで立ち上がっているのではなく、地面を押すから立ち上がれるのだと説明しています。床に着いている部分はすべて床を押します。
よくある間違い ・下ろすときに力を抜いてだらんと落とす(緊張が解けてしまう)。
・頭を動かさずに行う(ぎこちない動きになる)。お腹を縮めれば頭がもぐるのが自然な動きです。
・構えの時点で腕や太ももが斜めになっている。

途中で入る「構え」の補足(2:31:10ごろ)

参加者の動きを見た先生が、いったん止めて構えを直しています。自分の体を家にたとえると、支える柱が斜めでは押されたら簡単に倒れる。肩から手、大転子から膝がそれぞれ床と垂直になって、はじめて「始めてよい構え」になる、という内容です。構えができていないと種目の効果が薄れる、とも話しています。

滑車とロープのたとえ体は関節という支点の集まりで、各支点の滑車に1本のロープが通っていると考える。胴体の滑車が縮めば、頭は自然とおへそを見る動きになる。先生はこれを「自然の理」と呼び、当たり前の動きを受け入れることが体を知ること(身体知)だと話しています。
種目 4

腕立ての姿勢から、お腹を縮めて足を引き込む

ゆっくり行う

やり方

  1. 両足をまっすぐ伸ばした腕立ての姿勢をとる。お腹に緊張を入れ、腰を落とさない。
  2. お腹をぎゅっと縮め、背中側を少し上へ持ち上げる。お腹の下にできた空間へ、片足が胸元に引き込まれてくる。
  3. お腹(胴体)を下ろすことで、足が元の位置へ戻る。
意識するところ 見た目は「足を胸に引きつける」動きですが、中身は逆です。動きの出どころは下腹部で、お腹が縮むから足が運ばれてくる。「足に意思はない。足はお腹が動かすもの」というのが先生の言葉です。戻すときも「お腹が下りるから足が戻る」の順番を守ります。
よくある間違い ・足だけをひょいと引きつける(先生いわく「軽々しい動き」になる)。
・戻すときに足が先に下りる。
・構えで腰が落ちている。この状態では横から押されても戻ってこられません。
体幹が働いている目安どの方向から押されても対応でき、押されたら元に戻ってくる状態。先生は腕立ての姿勢の人を実際に押して、落ちた姿勢との違いを見せています。
種目 5(最後)

補助つきで、お腹を真上に引き上げる

10回2人1組(補助あり)

やり方

  1. 構えをとり、補助の人が足裏と膝を押さえて、膝の位置が動かないように固定する。
  2. 息を吐きながら、お腹を真上へ持ち上げる。お腹の力で、背中側にあるものを引き上げるつもりで行う。
  3. 下ろして、繰り返す。難しい人は、手のひらを床にしっかり押しつけて行う。
意識するところ これまでの種目は、お腹で重力を「持ち上げる」動きでした。今度はその応用で、お腹より下(背中側)にある自分の体を、お腹で「引き上げる」動きになります。大きい部分(体幹)で小さい部分(手足)を動かす、という順番を体に覚えさせる種目です。
よくある間違い膝が自由に動くと、足の力で体を上げてしまい、弱々しい動きになる。だから補助の人が膝と足裏をあえて使えないように止めます。先生は「体幹を意識させるには、末端の主導権を取り上げるしかない」と説明しています。
補助する側のこつ膝の位置を最初から最後まで変えさせないこと。先生は「補助のセンスも問われる」と話し、見る力・支える力も一緒に育てるよう促しています。

この種目は構えの説明が映像頼みで、音声では姿勢の細部が語られていません。上の手順は音声の内容からまとめたものなので、開始姿勢は必ず動画で確認してください。
実施後のチェック

もう一度、一歩踏み出して押してもらう

2人1組

最初と同じチェックをもう一度行います。会場では、押されても耐えられるようになった様子が映っています。先生は、体が熱く感じるのは大事な反応で、いまは「整った状態」だと説明し、帰り道の歩き方がどう変わったかを感じてみるよう勧めています。

検証

超音波エコーで見る体幹の筋肉(実施前)

トレーニングの前に、モデルの方の体幹をエコーで観察している場面です。見ているのは次の3か所です。

  • 腹横筋:おへその外側あたりで、外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋の3層を映し、お腹をへこませる動き(ドローイン)で一番下の層が縮むかを見る。
  • 胸腰筋膜:腹横筋がしっかり縮むと、後ろ側の筋膜が前へ引っ張られて滑る。この滑りが腹圧の高まりにつながる。
  • 多裂筋:うつ伏せで足を上げ、腰の深い筋肉が縮むかを見る。

実施前のモデルの方は、腹横筋はよく縮むものの、胸腰筋膜の前への滑りと多裂筋の縮みが弱い、という評価でした。

検証

超音波エコーで見る体幹の筋肉(実施後)

同じモデルの方を、5種目のあとにもう一度観察しています。

  • 腹横筋:もともと強く縮む方だったため、前後で大きな違いは見られなかった。
  • 胸腰筋膜:実施前はほとんど動かなかったところが、前方へ2〜3cmほど滑るのが確認できた。お腹のまわり全体で腹圧をかけられる状態になった、という説明。
  • 多裂筋:変化が出にくい場所で、今回ははっきりした違いは示されていない。
読み取るときの注意これは若いモデル1名の、1回きりの前後比較です。担当の先生自身も「1回で劇的に変わるものではなく、続けて評価していくことが大事」と述べています。誰でも同じ変化が出るという意味ではないので、続けることを大切にしてください。
まとめ

5種目の早見表

種目回数いちばん大事な意識
1 足を開いて腰で円を描く左右各10回手足4点を広く着ける。負荷は丹田と股関節に
2 手で歩いて前へ出て戻る6回お腹の力を一切抜かない。腕はお腹で動かす
3 四つ這いで背中を持ち上げる10回床を押した力をお腹へ。だらんと下ろさない
4 腕立て姿勢で足を引き込む(動画内で回数の指定なし)お腹が縮むから足が来る。足に意思はない
5 補助つきでお腹を引き上げる10回膝を固定し、体幹で手足を動かす

全種目に共通する3つの軸

  • 地面を押す:床に着いている部分は広く着け、すべて床を押す。
  • お腹(腹圧)を抜かない:動きの出どころは常にお腹。手足はそれについてくる。
  • 感じながら行う:回数をこなすのではなく、「こういう感じか」をつかむところまでが1セット。